(・・・なんか、騒々しい。) 俺は一人暮らしの大学生で、家賃の安さ以外に自慢できる所がないアパートに住んでいる。 左右から隣の生活音が伝わってくることや、床下や天井からガサゴソと音がすることにはもう慣れた。 しかし、この音はそういった類の音ではない。 (つーか・・・この音・・・。) 床をハタキで叩いているような音と、足で床をどたどた叩いているような音が殆ど同時に聞こえる。 隣の部屋のヤツが掃除を始めたのだろうか? (・・・隣の・・・部屋・・・んなバカな!!) 俺は隣の部屋にはそんなことをするようなヤツは住んでいないことを知っている。 俺は音の真相を確かめるべく、ベッドから飛び起きた。 そして、俺はすぐに音の発生源を見つける。 「・・・・・・。」 音の発生源はとても長くてボサボサな金髪を携え、マニア御用達っぽいデザインのセーラー服を着た少女。 それだけなら普通の人間だ。・・・それだけなら。 「み・・耳と・・・尻尾ぉぉぉぉぉぉーっ!!?」 狐みたいな耳と尻尾の付いた少女。 一瞬飾りかとも思ったが、不規則に動く様子を見る限りはどうにも違うらしい。 彼女は俺の声にビックリしたのか耳と尻尾を逆立て、此方をじっと見つめている。 「うっす!お邪魔してるぜ!」 「うわっ!サツキ!」 サツキ。傍若無人に手足が生えて歩いているような俺の隣人。 容姿端麗だがその性格ゆえに年齢=彼氏居ない暦らしい。 部屋が隣というだけで、俺はよくコイツに振り回されている。 そのサツキが此処に居るということは、考えられる理由は1つ・・。 「コレはお前の仕業だな!?つーか、どうやってこの部屋に入りやがった!」 「ああ、大家にカギ借りた。つーわけで、サキツネ頼む。」 「はっ?おま、何言ってんだ・・ってサキツネ?」 俺はサツキの言った聞きなれない単語を鸚鵡返しで聞き返す。 サツキは件の少女を指差して答えた。 サキツネと呼ばれた少女は、床に足を放り出して座り込みお昼のメロドラマを見ている。 俺には何が面白いのかよく分からないが、とても楽しそうな笑顔で両足をばたつかせ尻尾をパタパタ振っていた。 「つーか、頼むってなんだよ!」 「いや、私サークルの合宿で一週間部屋空けるんだよ。その間、サキツネの世話頼むってこと。」 「はぁっ!?何で俺が!?」 「ちっちゃいことは気にすんな!じゃ、私もう行くから!」 「あ、待ちやがれコラッ!!」 サツキは俺の制止を振り切ってそそくさと俺の部屋から退散する。 俺は寝巻きのまま外まで走って追いかけたが、結局逃げられてしまった。 「・・・ちょ!おまっ!俺の漫画!」 俺が溜め息をつきながら部屋に帰ると、サキツネはテレビに飽きたのか俺の漫画を引っ張り出して読んでいた。 ケタケタ笑っているように見えるが、何故か笑い声が聞こえてこない。 読み終えたらポイと投げ棄てているので、周辺に漫画が散乱している。 「おい!せめて片せ・・って、あっ!それは!!」 サキツネが次に手に取った物。 それは、表紙こそ普通の漫画だが中身はエロ同人誌だ。 しかもまともな純愛物ではなく、所謂強姦とか陵辱とか言われるジャンルの物だ。 俺でもベタな隠し方だと思うが、こういう隠し方ぐらいしか思いつかなかったので仕方が無い。 「・・・って、おーい?」 さっきまで自由に動き回っていたサキツネが、急に大人しくなりじっとエロ同人誌を見ていた。 少し観察してみると、尻尾をクネクネとゆっくり動かしてほんの少しだけ吐息が荒くなっている。 (まさか・・・興奮してるのか?) ほんのり頬も赤みを帯びてきているし間違いない。 サキツネは俺の隠してたエロ同人誌を見て興奮している。 その時である。俺は急にあの尻尾の動きが俺を誘惑しているように見えて仕方なくなった。 そして俺は、その誘惑に負けてしまった。 「―――!??!!?!?!?!」 「あっ!すま・・いでぇっ!!」 俺が尻尾を撫でた瞬間、彼女の全身の毛が逆立ち持っていた物を床に落とす。 そして謝ろうとした俺の台詞を遮って張り手をかましてきた。 サキツネはその後部屋の隅まで走って行き、涙目で俺をじっと睨み付けている。 「わ、わりぃ・・。・・てか、尻尾弱いのか?」 俺の何気ない指摘に彼女は慌てて尻尾を庇って、首を大きく横に振る。 (あ、弱いんですね。分かりやすいです。) その後、暫くは俺を警戒して近づいてこない・・かと思ったが、10分後にはすっかり元の調子に戻り俺の前でテレビゲームをしていた。 「・・・ほぉー、意外とウマいな。」 サキツネは俺やサツキが作ったハイスコアを悉く塗り替えていく。 (しっかり1時間に1回小休止を取ってる辺り、偉いというか何というか・・。) ぼーっとサキツネの作ったハイスコアランキングを見つめていると、突然情けない轟音が鳴り響いた。 「・・・腹減ったのか?」 サキツネはとても恥かしそうに一度だけ頷く。 時計を見ると19時を回ろうとしていた。そういえば俺も今日はまだ何も口にしていない。 俺は朝食兼昼食兼夕食をとることにして冷蔵庫の前に行き、そこでふと疑問を抱く。 「・・・サキツネ、お前。何食うの?」 俺の問い掛けに、サキツネは悩んでいるような顔を見せる。 そして、何かを閃いたかのように一度手を叩いて引き出しから大学ノートとシャープペンシルを取り出して来た。 サキツネは床に大学ノートを広げて楽しそうに顔を揺らして何かを書き始める。 そして、少し得意げな笑顔で俺に書いた物を見せてきた。 「・・・すまん。何だかさっぱり分からん。」 サキツネが俺に見せてきた物はひし形が1つだけ半円の中に描いてあって、ひし形と半円の間にグルグル線が描いてある物だった。 俺の一言にサキツネはしゅんとするが、すぐに何かを思いついたらしく再び行動を始めた。 「ん?何?えっと・・お椀?」 サキツネは手で半円のような物を持った素振りを始める。 それから、そこに手を突っ込んで何かを引っ張り出して口元に持っていく。 「お椀・・・?から・・・何か・・取り出して・・・食べる・・?」 (何となく、見えてきたような見えてこないような・・。) そして、何か四角い物を宙に描いて、自分を指す。 「四角・・・?サキツネ・・・・お椀・・・取り出して・・・キツネ・・・あっ!キツネ蕎麦か!?」 どうやら、正解らしい。 サキツネは再び満面の笑みで何度も頷いた。 (あっ・・キラりと光る八重歯がちょっとだけ可愛い・・・。って俺、何考えてるんだ!) 「キツネ蕎麦かぁ・・・インスタントでOK?」 俺はカップのキツネ蕎麦を一番高い棚から取り出して見せる。 サキツネはとても嬉しそうに万歳をして飛び跳ねていた。 「・・・うまいか?」 俺の問い掛けにサキツネは汁を飲み干し、最後に残った油揚げを頬張りながら一度だけ頷く。 とても満足しているのだろう、尻尾をぱたぱた素早く振っていた。 「そっか。」 (狐・・というか犬だな・・こりゃ・・。) 食べ終わるとサキツネは大きな欠伸をしていそいそと俺のベッドに潜り込んでいった。 「何だ?もう寝るのか。って、そこは俺のベッドだ!」 あまりに自然に入っていくものだからつい見ていたが、あそこは俺のベッドである。 そこで寝られたら俺の寝場所がなくなってしまうので、とりあえず俺は布団を捲くった。 「・・・もう寝てる。つーか、何時の間にジャージに着替えたんだ・・。」 サキツネは何時の間にかジャージ姿で身を丸め、スースーと寝息を立てていた。 どうやらこうなると梃子でも動かないらしい。 尻尾を触っても少しだけ眉を顰めて耳を一、二度動かすだけだった。 「・・・ったく。しゃーねぇなぁ。」 俺は押入れから冬用のロングコートを取り出し、掛け布団代わりにして寝ることにした。 ・・・俺とサキツネの、慌しい日曜日はこうして終わるのだった。 @登場キャラ紹介 ・俺 主人公。20歳の大学生。 迷惑な隣人、サツキからサキツネを一週間預かることになった。 ゲームと漫画とエロ同人誌(強姦とか陵辱系ばかり)を集めるのが趣味。 ・サツキ 主人公の隣人。20歳の大学生。大学非公認サークル『ゲーム攻略研究部』(メンバーは5人程度)を立ち上げている。 容姿端麗だが年齢=彼氏居ない暦。傍若無人に手足が生えて歩いているような人間。思いつきで行動する。 一応、サキツネの飼い主。本人曰く飴玉やったら付いてきて、可愛いのでそのまま飼ってる。 超ヘビーゲーマーで、ジャンル問わずあらゆるゲームを買って1週間以内に完全攻略をしてしまう。 ・サキツネ 人間なのか動物なのか分からない謎の存在。 人語を解すが喋る事は無いらしく、ボディランゲージや表情で会話する。 一応絵を描くこともできるが幼稚園児並みの画力なため何がなんだかさっぱり分からない。 天真爛漫でお気楽、好奇心と食欲が旺盛。警戒心はそれなりにあるが物欲にとても弱い。 好きな食べ物はきつねうどんときつねそば。お風呂が大嫌い。 尻尾が弱点で不用意に掴まれたりするととてもビックリする。 セーラー服は本人のお気に入りなのか、サツキが趣味で着せているのかは不明。 寝る時はジャージに着替えるが、何時の間にか着替えているため着替え中を見た者は居ないらしい。 多感なお年頃なのか、性のことに興味はあるけど意外と恥かしがり屋で晩熟。 @次回予告・・って続かないよ!続かないんだってば! 俺とサキツネの奇妙な生活が始まってもう水曜日だ。 この日、俺とサキツネは些細なことでケンカをしてしまう。 飛び出していったサキツネ。 外は朝からずっと土砂降りで、このままじゃアイツ、風邪引いちまうかも・・。 次回、サキツネさんと一週間「狐と土砂降りの水曜日」。 @後書き 絵茶うpロダにあったサキツネさんのSSが可愛くて触発されました。 設定とか勝手につけてとてもすみません。その前に、勝手に書いてしまってとてもすみません。 でも俺、コレを書き上げたら勝つる気がしたんだ!(ぇ 14スレ目の74でした。 |